はじめに

「自分はADHD(注意欠如・多動症: Attention Deficit Hyperactivity Disorder)かもしれない」——仕事のミスや先延ばし、スケジュール管理の困難をきっかけに、大人になってからADHD 診断 大人の受診を検討する人が増えています。Faraone ら(2021)の国際コンセンサス声明によると、成人ADHDの世界的な有病率は2.5〜5%と推定されており、決して珍しい状態ではありません。一方で、日本では成人の発達障害を専門的に診られる医療機関が限られ、「どこを受診すればいいのかわからない」「検査にいくらかかるのか不安」という声が多く聞かれます。本記事では、受診先の選び方から検査内容、費用、診断後に活用できる制度まで、受診前に知っておきたい情報を整理します。

セルフスクリーニング:ASRS-v1.1

受診を迷っている段階で参考になるのが、WHO(世界保健機関)が開発したASRS(Adult ADHD Self-Report Scale: 成人ADHD自己報告スケール)v1.1です。ASRSには6問のスクリーニング版と18問のフル版があり、6問版はKessler ら(2005)の検証で感度68.7%・特異度99.5%と報告されています。不注意・多動性・衝動性に関する過去6ヶ月の行動頻度を5段階で回答する形式で、所要時間は数分程度です。

ただし、ASRSはあくまでスクリーニングツールであり、診断そのものではありません。スコアが高い場合も低い場合も、正確な評価には専門医による問診と検査が必要です。Kooij ら(2019)の欧州コンセンサス声明でも、自己報告尺度は臨床面接の補助として位置づけられています。

受診先の選び方:ADHD検査に対応する病院を見極める

成人のADHD診断を行える医療機関は、主に以下の3種類です。

  • 精神科: 発達障害の診断・薬物療法の両方に対応できる場合が多い
  • 心療内科: ストレス関連疾患が主対象だが、発達障害を診る医師が在籍する場合もある
  • 発達障害専門外来: 大学病院や専門クリニックに設置。検査体制が充実している反面、初診までの待ち時間が数週間〜数ヶ月に及ぶことがある

重要なのは「発達障害を診られる医師がいるかどうか」を事前に確認することです。厚生労働省の「発達障害の理解のために」パンフレットでは、各都道府県の発達障害者支援センターが相談窓口として案内されており、受診先の情報提供を受けられます。初診予約の際は、「成人の発達障害(ADHD)の診断を希望している」と明確に伝えることで、対応可否の確認がスムーズになります。

診断の流れ:問診から心理検査まで

日本精神神経学会の成人期ADHD診療ガイドラインおよびKooij ら(2019)に基づくと、成人ADHDの診断は以下のステップで進みます。

1. 問診(初診〜2回目)

医師が現在の困り事と生育歴を聴取します。DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版)の診断基準では、不注意・多動性-衝動性の症状のうち複数が12歳以前から存在し、2つ以上の領域(職場・家庭・対人関係など)で機能障害を引き起こしていることが求められます。幼少期の様子を客観的に裏づけるため、家族からの聞き取りや小学校の通知表などの第三者情報が重視されます。

2. 心理検査

ADHDの症状を定量的に評価するために、以下の検査が組み合わせて実施されます。

  • CAARS(Conners' Adult ADHD Rating Scale): 成人ADHD症状の重症度を測定する自己記入・他者記入式の尺度。不注意・多動性-衝動性・DSM-5症状指標などの下位尺度で構成される
  • WAIS-IV(ウェクスラー成人知能検査第4版): 知能全般の評価に加え、ワーキングメモリ指標(WMI)や処理速度指標(PSI)の相対的な低下パターンがADHDの参考所見となる場合がある。所要時間は60〜90分程度

3. 行動観察・総合判断

検査結果と問診情報を統合し、他の精神疾患(うつ病、不安障害、双極性障害など)との鑑別を行ったうえで診断が下されます。ADHDには不注意優勢型・多動性-衝動性優勢型・混合型の3つの表現型があり、どのタイプに該当するかも評価されます。表現型の詳細はADHDの3タイプで解説しています。

費用の目安:初診から検査完了まで

医療機関や検査内容によって幅がありますが、3割負担(健康保険適用)の場合のおおよその目安は以下のとおりです。

項目費用の目安(3割負担)備考
初診料3,000〜5,000円問診時間により変動
CAARS等の心理検査5,000〜20,000円保険適用の場合あり
WAIS-IV知能検査10,000〜20,000円自費の場合もある
再診・結果説明1,500〜3,000円複数回にわたる場合あり

注意点: 心理検査の保険適用範囲は医療機関によって異なります。事前に「検査費用は保険適用か自費か」を確認しておくと安心です。初診から診断確定まで、通常2〜4回の通院で合計2万〜5万円程度を見込んでおくとよいでしょう。

診断後のアクション:制度の活用と次のステップ

ADHDの診断を受けた後、症状への対処として薬物療法や心理社会的介入が選択肢になります。薬物療法の選択肢についてはADHDの薬物療法で詳しく解説しています。加えて、経済的負担を軽減する公的制度を知っておくことも重要です。

自立支援医療制度(精神通院医療)

精神疾患の継続的な通院治療にかかる医療費の自己負担を3割から1割に軽減する制度です。ADHDも対象となり、市区町村の障害福祉窓口で申請できます。診断書と所定の申請書類が必要で、有効期間は1年(更新可能)です。

精神障害者保健福祉手帳

ADHDを含む精神障害がある場合に取得できる手帳で、税制優遇や公共交通機関の割引などの支援を受けられます。等級は1〜3級があり、主治医の診断書に基づいて判定されます。

障害者雇用枠

手帳を取得している場合、障害者雇用枠での就職・転職が可能になります。職場での実行機能(executive function)の困難に対して合理的配慮を求めやすくなるメリットがあります。ADHDの実行機能評価に関する最新研究はADHDの3Dゲーム評価研究も参照してください。

重要: 診断を受けることと手帳を取得することは別の選択です。制度の利用はすべて任意であり、本人の希望と生活状況に応じて判断するものです。

おわりに

大人のADHD診断は、受診先の選定・問診・心理検査・総合判断というステップで進みます。費用は初診から診断確定まで2万〜5万円程度が目安であり、診断後は自立支援医療制度の活用で継続的な通院費用を軽減できます。「自分はADHDかもしれない」と感じた場合、まずは発達障害者支援センターへの相談や、ASRSによるセルフスクリーニングが最初の一歩になります。正確な評価と適切な支援につながるために、本記事の情報を受診準備に役立てていただければ幸いです。

参考文献

  1. Faraone, S. V., Banaschewski, T., Coghill, D., Zheng, Y., Biederman, J., Bellgrove, M. A., Newcorn, J. H., Gignac, M., Al Saud, N. M., Manor, I., Rohde, L. A., Yang, L., Cortese, S., Alber, D., Frumento, P., Schweren, L. J. S., Mober, M., Rohde, C., Ramos-Quiroga, J. A., … Wang, Y. (2021). The World Federation of ADHD International Consensus Statement: 208 evidence-based conclusions about the disorder. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 128, 789–818. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2021.01.022
  2. Kooij, J. J. S., Bijlenga, D., Salerno, L., Jaeschke, R., Bitter, I., Balázs, J., Thome, J., Dom, G., Kasber, S., Nunes Filipe, C., Stes, S., Mober, P., Grevet, E. H., Oliveira, C., Correas Lauffer, J., Corominas, M., Bobes, J., Mccarthy, J. M., Richarte, V., … Asherson, P. (2019). Updated European Consensus Statement on diagnosis and treatment of adult ADHD. European Psychiatry, 56, 14–34. https://doi.org/10.1016/j.eurpsy.2018.11.001
  3. Kessler, R. C., Adler, L., Ames, M., Demler, O., Faraone, S., Hiripi, E., Howes, M. J., Jin, R., Secnik, K., Spencer, T., Ustun, T. B., & Walters, E. E. (2005). The World Health Organization Adult ADHD Self-Report Scale (ASRS): A short screening scale for use in the general population. Psychological Medicine, 35(2), 245–256. https://doi.org/10.1017/S0033291704002892
  4. 厚生労働省. (n.d.). 発達障害の理解のために. https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
  5. 日本精神神経学会. (2022). 成人期ADHD診療ガイドライン. 医学書院.