要約

DSM-5-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision)は、米国精神医学会(APA)が 2022年に発行した精神疾患の診断・統計マニュアルの最新版です。世界中の臨床・研究で用いられる標準的な診断基準集で、日本語版は医学書院から刊行されています。

位置づけ

DSM は精神疾患の診断カテゴリを体系化した国際的に影響力の大きい文書です。ICD(WHO の国際疾病分類)と並ぶ2大診断基準体系の一つで、米国では保険請求・臨床・研究のすべてに用いられます。日本では公的な診断書には ICD を用いることが多い一方、臨床研究や臨床診断の詳細評価では DSM が広く参照されます。

DSM-5(2013)から DSM-5-TR(2022)への主な変更

  • 新カテゴリ「遷延性悲嘆症(Prolonged Grief Disorder)」の追加
  • 神経発達症群では、ASD・ADHD の診断基準そのものは概ね維持、有病率・関連特徴・性差・文化的要因の記述が精緻化
  • 診断コードの ICD-10-CM への対応更新
  • 自殺行動と非自殺性自傷の記述改訂

神経発達症群の扱い

DSM-5 以降、神経発達症群は独立した章として整理されており、以下が含まれます。

  • 知的発達症、コミュニケーション症群、ASDADHD、限局性学習症(SLD)、運動症群(DCD・チック症など)

DSM-5-TR ではこれらの項目で、成人期の症状表出や女性における非典型的な表れ方についての記述が拡充されました。

日本語訳の留意点

日本語版 DSM-5-TR では「障害」を「症」に置き換える訳語方針が引き続き採用されています。例: Autism Spectrum Disorder → 自閉スペクトラム症、ADHD → 注意欠如多動症。本メディアでも原則この訳語に従います。

参考文献

  1. American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR).
  2. 髙橋三郎ほか(監訳) (2023). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.

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