要約
ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーションの質的な違いと、限定的・反復的な行動パターンを中核特徴とする神経発達症です。有病率は世界的に約1〜2%と報告され、知的水準や症状の重さは極めて多様であるため「スペクトラム」という概念で捉えられます。
定義
自閉スペクトラム症は、(A) 複数の状況における社会的コミュニケーションおよび相互関係の持続的な欠陥と、(B) 限定的で反復的な行動、興味、または活動のパターンを特徴とする神経発達症である。
— DSM-5-TR(American Psychiatric Association, 2022)
ICD-11 では 6A02「自閉スペクトラム症」として分類されています。
中核特徴(DSM-5-TR)
A. 社会的コミュニケーションと相互作用の違い
- 相手との感情の共有、会話のやりとりの困難
- 視線、表情、身振りなど非言語的コミュニケーションの使用・理解の違い
- 年齢相応の対人関係の発達と維持の困難
B. 限定的・反復的な行動、興味、活動のパターン
- 反復的な運動、会話、物の使い方(常同行動)
- 同じ手順や儀式への強いこだわり
- 極めて限定され、強度が高い興味
- 感覚入力への過敏さ/鈍感さ、または感覚刺激への強い関心
症状は 発達早期から存在 し、社会的・職業的機能を阻害 する水準である必要があります。重症度は社会的コミュニケーション・反復行動それぞれで3段階(レベル1〜3)に評価されます。
背景・なぜ重要か
ASDの概念は 1943年の Leo Kanner、1944年の Hans Asperger の症例報告に始まります。20世紀半ばまで「冷蔵庫マザー仮説」など親の養育が原因とする誤った説が広まりましたが、現在では遺伝的・神経発達的要因が主であることが確立されています。
近年はプリンストン大学のチームなどにより、ASDを遺伝的・発達的な差異に基づき複数のサブタイプに分類する研究が進んでおり、個別化医療の可能性が開けつつあります(Litman et al., 2024)。
主な診断・評価ツール
- ADOS-2(Autism Diagnostic Observation Schedule): 構造化された観察評価のゴールドスタンダード
- ADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised): 養育者への半構造化面接
- M-CHAT-R/F: 18〜24ヶ月の幼児スクリーニング
- AQ(Autism-Spectrum Quotient): 成人の自記式スクリーニング
- SCQ(Social Communication Questionnaire): 養育者記入式スクリーニング
主な介入・支援
- 早期発達支援(療育): 応用行動分析(ABA)、TEACCH、JASPER、ESDM など
- ソーシャルスキルトレーニング(SST)
- 環境調整: 構造化、視覚支援、予告、感覚刺激の統制
- 併存症の治療: 不安、うつ、睡眠、てんかん、消化器症状など
- 家族支援: ペアレントトレーニング、レスパイトケア
薬物療法はASDそのものへの治療ではなく、併存する症状(不眠、過剰な攻撃性等)の対応として限定的に用いられます。
よくある誤解・落とし穴
- 誤解: 「ASDの人は感情がない」→ 感情はあり、むしろ感覚過敏によって感情が強く揺さぶられていることが多い
- 誤解: 「ワクチンがASDの原因」→ 科学的に完全に否定されており、元論文も撤回済み(Wakefield事件)
- 誤解: 「ASDの人は共感できない」→ 認知的な読み取りの違いであり、感情的共感は保たれる場合も多い
- 誤解: 「育て方が原因」→ 冷蔵庫マザー仮説は否定されている
参考文献
- American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR).
- Lord, C., Brugha, T. S., Charman, T., et al. (2020). Autism spectrum disorder. Nature Reviews Disease Primers, 6(1), 5. https://doi.org/10.1038/s41572-019-0138-4
- World Health Organization. (2019). International Classification of Diseases (11th rev.; ICD-11).
- Litman, A., Sauerwald, N., Green Snyder, L., et al. (2024). Decomposition of phenotypic heterogeneity in autism reveals underlying genetic programs. Nature Genetics.
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