要約
神経発達症(Neurodevelopmental Disorders)は、発達期に発現し、認知・行動・社会性・運動・学習などの領域に持続的な影響を与える疾患群の総称です。DSM-5-TR では ADHD・ASD・知的発達症・SLD・DCD・チック症などが含まれます。日本では法律上「発達障害」として ADHD・ASD・LD を中心にまとめて扱われています。
定義
神経発達症は、発達期に発症し、個人的・社会的・学業的または職業的な機能の障害を生じる神経発達の障害群である。症状は発達期の早期に現れ、しばしば学齢期前に診断される。
— DSM-5-TR(American Psychiatric Association, 2022)
ICD-11 では「06 Neurodevelopmental Disorders」として独立した章にまとめられています。
主な下位カテゴリ(DSM-5-TR)
| カテゴリ | 概要 |
|---|---|
| 知的発達症(Intellectual Developmental Disorder) | 知的機能と適応機能の両方に有意な制限 |
| コミュニケーション症群 | 言語症、語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的コミュニケーション症 |
| 自閉スペクトラム症(ASD) | 社会的コミュニケーションの違いと限定的・反復的行動 |
| 注意欠如・多動症(ADHD) | 不注意・多動・衝動性 |
| 限局性学習症(SLD / LD) | 読字、書字、算数など特定の学習領域の困難 |
| 運動症群 | 発達性協調運動症(DCD)、常同運動症、チック症(トゥレット症など) |
神経発達症と「発達障害」の違い
| 用語 | 出典 | 範囲 |
|---|---|---|
| 神経発達症(医学用語) | DSM-5-TR、ICD-11 | 知的発達症・ASD・ADHD・SLD・DCD・チック症・コミュニケーション症群などを含む広い概念 |
| 発達障害(法律用語) | 日本の発達障害者支援法 | 主に ASD・ADHD・LD を指す。知的障害は別法で規定 |
| 発達障害(社会的通称) | 一般社会 | 文脈により範囲が異なる。しばしば ADHD・ASD を想起 |
医学的な記述では「神経発達症」、行政・法制度の文脈では「発達障害」を使い分けるのが正確です。
背景・なぜ重要か
DSM-5(2013年)で「神経発達症」が独立した章となり、発達期の特性として統合的に扱う枠組みが確立しました。これにより、ADHDとASDが併存することが多い、学習症が他の神経発達症と重なることが多いといった 併存の実態 が認識しやすくなりました。
日本でも 2005年の発達障害者支援法、2016年の障害者差別解消法、2024年の同法改正による合理的配慮の義務化など、制度整備が段階的に進んでいます(厚生労働省, 2024)。
併存の実態
ADHD・ASD・SLD・DCD は互いに併存しやすく、以下が報告されています(Gillberg, 2010; Leitner, 2014)。
- ADHDのうち 約30〜50% が ASD 特性を併存
- ASDのうち 約30〜80% が ADHD 症状を併存
- ADHDのうち 約30〜70% が SLD を併存
- DCDは ADHD・ASD・SLD の各群で高頻度に併存
このため、単一カテゴリの診断に留めず、プロファイルとして包括的に評価することが推奨されています。
関連する制度・ガイドライン
- 発達障害者支援法(2005年施行、2016年改正)
- 障害者差別解消法(2013年成立、2024年改正で合理的配慮義務化)
- 障害者雇用促進法
- 特別支援教育(学校教育法)
- 精神障害者保健福祉手帳(診断により取得可能)
よくある誤解・落とし穴
- 誤解: 「発達障害=知的障害」→ 知的障害を伴う場合もあるが、多くは知的水準に問題がない
- 誤解: 「発達障害は珍しい」→ 学齢期の子どもの10%前後に何らかの神経発達症が見られる
- 誤解: 「しつけや育て方で予防できる」→ 主要因は神経発達の違いで、育て方が原因ではない
参考文献
- American Psychiatric Association. (2022). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (5th ed., text rev.; DSM-5-TR).
- World Health Organization. (2019). International Classification of Diseases (11th rev.; ICD-11).
- Gillberg, C. (2010). The ESSENCE in child psychiatry. Research in Developmental Disabilities, 31(6), 1543–1551.
- 厚生労働省(2024). 発達障害者支援施策. https://www.mhlw.go.jp/